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首都圏新築マンション市場 数の調整、価格維持に作用 ~その2~

2021.4.26|業界の知識を深める

  • マンション
  • 分譲戸建て
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コロナ禍における数的変化を考察

コロナウイルス流行の影響を見極めるために3月以降毎週のようにマンション市場の検証を行っている。データを文字通り見るだけでは、現在起きていることを判断するのは難しいと痛感している。特に新築マンションは、今までのところ価格に大きな変動が起きたとは言えない状況である。4月には東京23区で価格の下落が見られる(グラフ1)。平均坪単価は3月には431・9万円とかなり高いレベルにあったが、4月には一気に344・4万円に下落している。しかし、これはあくまで平均値の変動であり、これをそのまま鵜呑みにするのは市場を見誤る可能性があり危険である。

(株式会社東京カンテイ 市場調査部 上席主任研究員 井出 武)

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郊外化の進展に可能性

テレワークの普及とその進展をある程度現実のものとなると私も考えている。テレワークでできることとできないことが明らかになったことと、企業にとっては一定のコスト削減に繋がることも確認できた。導入に前向きな企業も出てくる。また、導入に向かない業種だからといって、躊躇っていると優秀な人材が集まらなくなるという懸念があるのなら、結局どのような部門なら採用できるのかという選択になるのだろう。

6月以降「これからはテレワークの時代になるので、郊外のマンションが人気となり、都心は売れなくなるのですか」という、単純な発想に基づく質問を多く受けた。都心のマンションが高すぎるので、「マンションが買いやすくなるかもしれない」という期待感は頷ける部分もあるので、その可能性についてはきちんと向き合わなければいけない。「単純な発想」だと切り捨てるのは簡単だが、単純な発想が大きな変化(シフト)をもたらすことはままあるからである。

テレワークの進展によって必ずしも都内のオフィスに通勤しなくて良いか、日数が減る場合、マンションの立地選びに変化は出る可能性はある。

マンション購入は、よく言われている通り、妥協の産物でもあるので、通勤時間を犠牲にして部屋数を優先するかもしれない。そうなると、東京23区と都下のシェアに変動が出るだろう。グラフ5は首都圏の都県別(東京都は東京23区と都下に分類)のシェア推移を示したものだ。確かに東京23区のシェアが縮小しているようにも見える。特に5月は東京23区の分譲戸数シェアは38・5%に縮小しており、同月には神奈川県のシェアが37・0%と非常に大きくなっている。神奈川県の37・0%の約半数は茅ヶ崎市に供給されており、郊外化現象の表れに見える。都下の関しても16・1%に拡大している。

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しかし、この動きは緊急事態宣言下にあった5月の動きであり、分譲戸数自体が著しく減少していた時の変化である。翌6月には分譲戸数は回復基調にあったが東京23区のシェアは40・7%に回復、都下は10・0%に縮小、神奈川県も19・4%に縮小して標準的なシェアに戻っている。6月に変化が大きかったのは千葉県で、24・6%に拡大、過去1年間で最大のシェアとなった。7月は東京23区のシェアはさらに回復し42・5%となったが、埼玉県が12・3%とシェアを拡大させた。

東京23区のシェアはコロナ流行前には50%前後からそれを超える水準にある月も珍しくなかった。それから考えれば4月以降は縮小した可能性もある。この動きを確認するために東京23区のみを「都心6区」「南西6区」「北東11区」※に分類して分譲戸数を見たものがグラフ7である。

(※【都心6区】=千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、渋谷区 【南西6区】=品川区、大田区、目黒区、世田谷区、中野区、杉並区 【北東11区】=豊島区、台東区、墨田区、江東区、北区、荒川区、板橋区、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区)


都心6区の比率減

4月以降、明らかに都心6区の比率が減少していることがわかる。4月と5月は緊急事態宣言下にあったため、そもそも全体の分譲戸数が大きく落ち込んでいたわけだが、徐々に戸数が回復していく過程にある6月においても都心6区のシェアは14・4%と1月には46・6%を占めていたことを考えると大幅なシェア縮小である。

一方では7月には都心6区のシェアは37・8%と概ね本来の水準に近い状態に戻っている。この背景には大手ディベロッパーの供給量がほぼコロナ流行前の状態の戻ったことも影響していると考えられる。

このように東京23区に限ってみると、4~6月はかなり偏った供給が行われ、都心6区の分譲戸数が少ない状況となったが、7月にはこの状況は解消した。ところが首都圏全体で見た場合は(グラフ5)東京23区のシェアは7月の時点でも、コロナ前の状況には戻っていない。

都下、神奈川県、千葉県、埼玉県は一定の分譲戸数シェアを確保した形となっており、郊外化が一定のレベルで進展している可能性はある。8月以降この状態が維持されるのか、逆に再び東京一極集中に戻っていくのかを注視する必要がある。


トレンド変化はしばらく先

もう一つの観点は、テレワークの進展により広めの専有面積の住戸が増加したか否かである。グラフ6に示した通り、極端に分譲戸数が減少した4~5月を除いて考えても70㎡以上の合計シェアは、6月の53・6%から7月は56・0%に拡大している。と同時に30㎡以上50㎡未満と50㎡台のようなコンパクトタイプマンションの合計シェアも減少が見られる。新築マンションでは新規分譲されるマンションの規模によって、これらのシェアが大きく変動する。19年8月のように広めの専有面積帯が多く分譲される月もあるが、翌9月のように狭めの専有面積帯のシェアが一気に拡大することが、1カ月単位で起こる。従って、8月以降の動向を確認する必要がどうしても必要と思われる。郊外エリアでの新規分譲が増加すれば、郊外都市に分譲される物件は、そもそも専有面積が広い住戸が多いため、広めの専有面積帯のシェアも拡大する。これらの動きは連動していくと見るべきだ。

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しかし一つ疑問もある。現在まだコロナウイルスの流行は収束していない。「第2波」と見られる新規の感染者増加が7月から8月にかけて起こっている。事態の長期化は確実に各業界において企業業績を悪化させている。このような状況下で大きなトレンドを巻き起こすほどの消費行動が起こったのかという点は疑問として残る。マンション購入を考える人にとっては、一時的にテレワークが採用されたことで、このタイミングで引っ越しを伴うような行動を起こすのだろうか。一部では恒久的なテレワークの採用を言及していたり、本社機能を地方に移転させると公表している企業も出始めているが、企業がテレワークやリモートワークをコロナ対策として一時的に採用している段階で、かつコロナ禍による経済的な不安や先行きの不透明感が継続している状況では、大きな金額の買い物となるマンション購入の大きなトレンド変化は、少なくともしばらく先の話ではないかと考える。現在起こっていない価格の下落も、実需層の本格的な動きに伴って起こる可能性も否定できないだろう。

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『住宅新報』2020年9月22日号「不動産流通特集」より)

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