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人生100年時代、安心・安全・健康な暮らし実現へ加速 ~その1~

2021.4.26|業務のプロになる

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SDGs、ESG経営との関連で

「人生100年時代」に入ったといわれる現代の日本社会。教育や介護、働き方など様々な分野でその実現に向けた取り組みが進められつつあるが、住宅産業はそれを支える柱となるものではないだろうか。というのも、暮らしに直結するものであり、住まいが長く安心・安全で快適でなければ人々の健康な暮らしを担保できないからである。そして、このことはSDGsやESG経営の実現などといった課題とも強く関連する。この特集では住宅事業者の取り組みを紹介しながら、「人生100年時代」をキーワードに、住まいに関連する取り組みの方向性を探る。(住生活ジャーナリスト 田中直輝)


国家プロジェクトとして検討進

「人生100年時代」は、ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン氏らが著書「ライフ・シフト100年時代の人生戦略」で提唱した言葉だ。世界で長寿化が急激に進む中、我が国については、「07年に生まれた子供の半数が107歳より長く生きる」と推計している。これが本当に実現するかは別として、いずれにせよ我が国が超高齢化社会となっていること、健康寿命がかつてないほど長期化していることは確かであり、国や国民に従来とは異なる制度や体制の整備、人生設計のあり方が必要とされていることは間違いない。そうした状況を受けて17年9月、安倍首相(当時)を議長とする「人生100年時代構想会議」が発足し、教育や採用、社会保障制度の改革などを主要テーマに議論が始まり、以降、18年6月に「人づくり革命 基本構想」が発表されるなど、国家プロジェクトとして制度改革の検討や政策への反映などが進められている。


問われる住まいのあり方

こうした動きを受けて、住宅産業でも人生100年時代に資する住まいのあり方が模索されているが、それはそのための課題が山積しているからに他ならず、住まいそのものの性能などのあり方、中でも人々が長く健康に暮らすために欠かせない温熱環境などの改善といったハード面、疾病や事故が発生しにくくなる、あるいはそうした事態に対応するソフト面の改善、充実が求められる状況だ。


課題解決の先に

よく言われることだが、住宅内での死亡事故で年間に発生する身体的な変調による死亡事故の数は、交通事故のそれに比べ圧倒的に多いということがその代表例だ。例えば、脳卒中はヒートショックなどで発症するとされている。脳卒中の患者数は老若男女問わず100万人を超えている(厚生労働省「平成26年患者調査の概況 主な傷病の総患者数」)などといった報告もある。こうした状況は国や国民の医療や介護などの費用負担増大につながっている。

要は、現状の住まいには、住まいの中に人々の長寿、健康の阻害があるわけで、その改善が社会課題の解決につながり、引いては人生100年時代に資するものとなるに違いない。


急性疾患への取り組み、実証実験段階

最初に、疾患が発生した際の取り組みについて紹介しよう。

積水ハウスは昨年12月、住宅内で居住者が心疾患や脳卒中など急性疾患が発症した際に早期に対応する仕組み「HED―Net」のパイロットプロジェクトを開始した。これは、住宅内で居住者のバイタルデータを非接触で検知・解析し、急性疾患発症の可能性がある異常を検知した場合、緊急通報センターに通知、オペレーターが呼びかけにより安否確認し、救急への出動要請、そして救急隊の到着を確認し、玄関ドアの遠隔解錠・施錠までを一貫して行うもの。昨年12月から、実証実験が首都圏の新築戸建て住宅で居住者が実際に居住したかたちで実施されている。

具体的には、賛同が得られた顧客の住宅(約30棟の予定)に機器を導入する工事を実施。様々なライフスタイルにおける実生活(寝室・リビングダイニング)の中で非接触型の生体センサーを稼働させ、データの取得状況・判定プログラムの精度・システム稼働状況などの検証を行っている。約1年間の試行を経て、センサー・アルゴリズムの検証や、住宅内の様々な環境に適応するための改良を経て、サービス化を目指す。その後、オープンイノベーションによるパートナーや人材を募りながら、蓄積されるバイタルデータを活用した経時変化・予防サービスの開発を行うとしている。

「人生100年時代の幸せをアシストする」という、独自の「プラットフォームハウス構想」に基づく取り組み。米国ネバダ州・ラスべガスで開催された、世界最大級のコンシューマー・エレクトロニクス見本市「CES2020」で、「世界初」として発表されたものであり、国内のシステム特許を取得し、国際特許出願中だ。

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「HED-Net」の運用イメージ


リフォームによる健康への効果を調査

リフォームにより既存の住まいにおける人々の暮らしを改善することで、居住者の健康状態を維持、向上に貢献できるとする調査結果がある。昨年1月にセキスイハイム(積水化学工業住宅カンパニー)のグループ会社・住環境研究所内の生涯健康脳住宅研究所が発表した「リフォームによる中高齢者の健康効果の調査」がそれだ。概要は、①LDK(リビング・ダイニング・キッチン)全体のリフォームで調理意欲が増し、人を招きたいという思いに、②断熱リフォームでは、快適性が増したリビングに家族が集まりやすくなり、会話も増加、③玄関まわりリフォームによって外出が楽しみになり、友人と交流するなど活動量が増進、④水まわりリフォームでは、洗面・浴室・トイレの全体改修で気分が明るくなり睡眠にも好影響、などとなっている。

「生涯健康脳」とは、東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授が提唱する概念。脳の活性化や機能維持のためには毎日の生活習慣が重要であり、中でも「会話」「食事(調理)」「運動」「睡眠」の4つの生活習慣「話食動眠(わしょくどうみん)」に配慮することで、健康な生活をより長期化させるという考え方だ。生涯健康脳住宅研究所は、話食動眠をサポートする機能を備えた住まいを研究している。

同研究所では調査結果について、「リフォームにより『生活が楽しい』、『気持ちが明るくなった』、『生活全般に活気がある』など、気持ちが前向きになることが読み取れ、睡眠の質の向上や調理の継続、家族や知人との会話の増加、積極的な外出により運動にもつながるなど話食動眠へのよい影響も大いに期待できる。また、『話食動眠』は4つの生活習慣がそれぞれに影響を及ぼし合い、生活に好循環をもたらすと考えられ、住まい全体を広範囲にリフォームすることは4つの生活習慣に幅広く好影響をもたらすことができるため、より健康な生活を長期化させることができる可能性がある」と見解を示している。