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住まいづくりとアレルギー対策≪住まいと暮らし特集≫

NEW 2022.6.21|業界の知識を深める

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アレルギーと健康と住まいの関わり方を見つめ直す


わが国では年々、アレルギー疾患を有する者の増加が見られ、乳幼児から高齢者まで、国民の約二人に一人が何らかのアレルギー疾患を有していると言われ、今後もその傾向は強まると思われます。こうした状況の中、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって在宅時間が増え、住まいに関わる時間がますます増えています。その住まいにおいて健康に過ごすためにはいかにすればよいか述べていきます。
【一般社団法人 日本環境保健機構 高尾和宏】


明らかになった環境由来


アレルギー疾患には食物アレルギーやアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、気管支ぜん息、薬剤アレルギー、昆虫アレルギー、金属アレルギーなどがあります。これらのアレルギーによって休園や休学、休職など余儀なくされて生活の質を著しく損なうことや、アナフィラキシーショックによって命に関わる症状が出現することもあります。
特に住居に起因するアレルギー疾患としては、気管支ぜん息やアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、アトピー性皮膚炎などが挙げられますが、昨今では、食物アレルギーといった、一見、住まい環境とは関係のないアレルギーも住まいと関係することがわかってきました。「食物アレルギーは関係ないのでは」との声もありますが、確かに以前は食物アレルギーは消化管でアレルゲンが吸収され感作が成立する腸管感作が主体と考えられていました。
しかし、近年の研究結果から、例えば、「卵の殻が床に落ちていて、またハウスダスト中に卵の殻が含まれているなど」の状態に触れたり、呼吸で吸い込むことによって食物アレルギーが発症することがわかってきています。このように以前は環境と関係がないと思われていたアレルギーも、実は、環境由来ということが明らかになってきています(図・要因と対策)。
このように、アレルギー疾患が国民生活に多大な影響を及ぼしている現状及びアレルギー疾患が生活環境に係る多様で複合的な要因によって発生し、かつ、重症化することに鑑み、アレルギー疾患対策の一層の充実を図るため、アレルギー疾患対策に関して、基本理念を定め、アレルギー疾患対策を総合的に推進することを目的に「アレルギー疾患対策基本法」が、2015年(平成27年)に施行されました。

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要因と対策


大切な環境づくり


「アレルギー疾患対策基本法」の基本理念として、4つが掲げられています(図・基本理念)。
この基本理念の中でも、住宅づくりに関わる者として重要な部分は、1の「アレルギー疾患の重症化の予防及び症状を軽減に資するために、アレルギー疾患対策を総合的に実施して生活環境の改善を図ること」、更には、3の「アレルギー疾患に関して適切な情報を入手することができるとともに生活の質の維持向上のための支援を受けることができる体制の整備がなされること」で、直接医療行為といった対症療法ではなく、保健/予防といったアレルギーやシックハウスに罹患しない環境づくりのほか、建築の専門家として住まい手への健康であり続けるための生活手法などの伝達になります。

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基本理念


くらしに〝ひと手間〟を


ここで少し、アレルギーについて整理しておきます。私たちの体には「免疫」という病気を引き起こす異物(例えば、ウイルスなど)から体を守る仕組みがあります。この仕組みが、ある特定の異物(ダニや花粉、食物など)に対して免疫が過剰に反応して、体に症状が引き起こされることを「アレルギー反応」といいます。
一般に、アレルゲンとなるものにはダニやカビ、ペットの毛、花粉、昆虫、食物などがあります。それらに対してアレルギーになるかどうかは個人差がありますが、疾患の原因となるアレルゲンや悪化因子を避けるための環境整備を行うことは重要です(図・医療と保険/予防)。
具体的に環境整備を進める中で、アレルゲンや悪化要因を避ける対策としてはやはり、換気とカビ・ダニ対策は欠かすことできません。理解していても実践しにくい、というのもこれら対策の特徴と言えます。これは生活の中に「ひと手間かける」ということが実践しにくいことに起因します。
例えば「風呂場にカビが生えてしまった後に、カビ取り剤で処理する」という生活に慣れている中、カビの生えない生活を行うこと(例えば、入浴後に壁の水滴を拭き取るなど)や、カビ取り剤の不使用により空気環境の悪化を防ぐことなどです。

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医療と保険/予防



計画的に換気を行う


ここからは、基本的な換気、結露、カビ・ダニ対策について述べていきます。高気密住宅が進む中、同時に、換気の必要性が見直されています。現在、03年の建築基準法改正以来、新築住宅には24時間換気設備の設置が義務付けられているように、いかに換気が必要であるか、逆に、24時間換気設備を設置しないと現代の建物では換気不足の空間にいるかがわかります。
また、24時間換気を設置しているから安心なわけではなく、その流れる空気を遮るものはないか、フィルターを掃除しているかなどといった設備の維持管理を適切に行い、設計通りの換気性能を確保できているか、仮に設置していても実際に換気装置を稼働させていなければ飾り物にすぎません。そこで、いかに換気が大切かを建築の専門家がアドバイスすることが必要になります(図・換気の必要性)。
ただし、室内の汚染物質の濃度低減だけを考えるのであれば、どんなに汚染物質の発生量があったとしても、それに応じて換気量を増やせば濃度低減は可能ですが、ただ換気量を増やすだけでは、それにより様々な弊害を生ずることになります。
例えば、冬期は冷たい空気を大量に入れることにより、暖房が効きにくくなることで、電気代やガス代がかさむことになります。従って、換気量をただ増やすのではなく、汚染物質の発生量を抑えることをまず優先するようにしなければなりません。その上で、冷暖房や室内環境への影響などを配慮して、換気方式や換気量を適切に計画しなければなりません。これが計画換気の必要性になります。

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換気の必要性


具体的な対策ポイント


次に結露ですが、これを予防することで、木材の腐朽を予防し、ダニやカビを発生しにくくでき、アレルギーの予防や化学物質を含有する防カビ剤や防ダニ剤などの使用を抑制することにもつながります。
結露を引き起こす要因には、その建物の構造によるだけではなく、住まう人の生活習慣なども大きく関わっています。日々の暮らしの中での対策によっても、結露を防止することができます。いくら建物の機能を向上させても、住まい方が悪ければ結露が発生します。日常生活の中でできる結露予防としては、水蒸気の発生を抑えることや、室内の温度差をなくすこと、換気対策などがあります。
換気や結露対策に続き、アレルギーを引き起こす生物的要因のカビやダニですが、カビやダニは湿度の高い環境を好む性質があります。室内、特に壁や床に近い場所の湿度を60%以下にし、アレルゲンとなるダニやカビを増やさないようにします。
カビの胞子は空気中を常に浮遊するため、それらをすべては取り除けませんが、繁殖させないためにもカビの繁殖条件の一つである水分に気を付ける必要があります。まず、カビ対策の基本ポイントを挙げます。仮に薬剤による防カビ処理や殺菌・漂白を行う場合は、その成分に十分に注意を払い、作業中は換気をよくする必要があります(図・カビ対策のポイント)。
次に、ダニは口や鼻から吸い込んでアレルギーを起こす吸入性のアレルゲンで、室内環境における最も注意の必要なアレルゲンの1つになります。一般家庭では、チリダニ科のコナヒョウヒダニとヤケヒョウヒダニの2種類が最も多く見られる種類のダニです。最近は、冬でも暖かい住まいが増え、ダニアレルゲンは室内で一年中見つかりますが、生ダニ数は夏期にピークを迎えて、ダニアレルゲン量はダニの死骸や糞からなるため、夏から秋に多くなります。
殺虫剤などの薬剤によるダニの処理は、含まれる化学物質によって健康被害が起こる可能性があるため、原則としては行わないようにします。仮に、殺虫剤で生ダニを殺しても、死骸や糞、脱殻が残ってしまい、それらがアレルギーの原因となります(図・ダニ対策のポイント)。
そのほか、この時期のアレルギーの要因となるのはスギやヒノキの花粉による花粉症で苦しむ人が増える季節となります。
最近の住まいは気密性が高い構造のため、空気を入れ替える換気口や通風孔が設けられていますが、外気を取り入れる「換気口」から花粉が入ってきていることがわかっており、入り込んだ花粉の多くは換気口のすぐ下に落ちているため、舞い上がる前に掃除をすることが大切になります。
また、昨今では、ペットを飼う家庭も増え続けていますが、ペットに対するアレルギーを持っていない方でも、新たに飼育することでアレルギーを獲得してしまうことがあります。
主な原因はペットの毛ですが、セキセイインコなどの鳥では、糞や脂粉までもアレルギーの原因になります。
また、ペットを室内で飼うとダニやハウスダストも増え、そのアレルギーの方が先に出ている場合もあります。特にネコの毛は細く軽いため、空気中に長時間漂うことが知られており、毎日の清掃は欠かせません。ペットを飼う場合でもカーペットより掃除しやすいフローリングの部屋で飼うことや、毛やふけが付着しやすい布団やソファに載せないことが大切です。

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カビ対策のポイント

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ダニ対策のポイント


分かりやすく伝えていく


最後に、アレルギー症状の悪化要因、シックハウスや化学物質過敏症を引き起こす化学物質の問題があります。
室内の空気を汚染し、気管支ぜん息などの悪化のもとになる物質としては、タバコの煙、石油など暖房器から発生する窒素酸化物や一酸化炭素、建材などの接着剤や合板から発生する化学物質などがあります。
室内における化学物質に関しては、厚生労働省が定めている個別の揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)の室内濃度指針値や03年施行の建築基準法に基づくシックハウス対策に係る法令等によりある程度規制されました(下表)。
しかし、厚生労働省の定める指針値以下であっても、健康への影響を受ける可能性があります。また、建築基準法に至っては、規制された物質の代替物質などの問題も残り、必ずしも絶対安全とは言い切れません。やはり、基本である換気によって室内空気を常に正常に保つためには、それらが発生しない生活や更なる建設の工夫も必要となります。
このように、住まうことで必ず起こるカビやダニの問題や花粉など外気からの影響、ペットを飼うことで引き起こされる健康への影響、住まいを構成する建材から発生する化学物質など、住まう上では避けて通ることのできない問題が多くありますが、これは、建築に携わる者だけで解決できる問題ではありません。
健康に住まうためにも、建築に携わる者とそこへの住まい手が「住まい」に対し、何が問題でどのようにすれば解決の道があるかなどを考慮する必要があります。
また、建築の専門家として当たり前である換気の必要性やひと手間をかけることで避けることができる健康被害などを住まい手にわかりやすく伝えていくことが今後の課題と言えます。

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個別の揮発性有機化合物の室内濃度指針値



『住宅新報』2022年4月26日号「住まいと暮らし特集」より)