記事

準備をする

アフターコロナの成長を模索

2021.11.14|業界の知識を深める

  • DX
  • 脱炭素化
記事イメージ

DXや脱炭素は、政府がアフターコロナを見据えた重点的に支援する分野としており、住宅・不動産業も無縁ではない。ディベロッパーのオフィスや住まいにデジタル技術が浸透し、仲介現場ではDX化競争の側面も出始める。脱炭素化は、木材利用の幅を広げると共に、不動産テック技術が脱炭素の取り組みを支える。これらの取り組みは、新たな価値を生み出している。


DXで働く場の新たな価値へ

コロナ禍で目に見えて変化したのは働き方だろう。在宅勤務は特別なことではなくなり、働く場所もオフィスだけでなく自宅やシェアオフィス、コワーキングスペースなど多様化している。最近はオフィスビルの空室率の高まりを懸念する声も出ているが、大手ディベロッパーは、時代のニーズに対応した働き方に対して、DXを活用して新しい価値の提供を模索する。


ワーケーション普及目指し 効果可視化プログラム開発

新しい働き方として注目されるワーケーション。休暇先であるリゾート地で、リモートワークで働くことを組み合わせた働き方で、企業の関心も高い。一方、リラックスして仕事ができるため、生産性の向上効果が期待されているが、定量的に効果が示されておらず、関心の高さに反して導入が進んでいないのが現状だ。

東急不動産、東急リゾーツ&ステイ、凸版印刷は、センシング技術を使って、ワーケーションが個々人に合った仕事のパフォーマンス向上方法を試し、確認して実践できるプログラムの実証実験を、千葉・勝浦の「ホテルハーヴェスト勝浦」を使って行った。「興味はあるが、どうしたらいいか分からない企業が多い」(東急リゾーツ&ステイの石橋剛広報グループグループリーダー)ため、実証実験の結果を踏まえて、「企業が導入しやすいワーケーションプログラムを開発する」(同)ことを目的とする。

実証実験では、ワーケーションをきっかけにパフォーマンスがアップする方法を知る従業員のセルフマネジメント能力を高めるプログラムとした。具体的には、身体に付けた心拍センサーで普段の状態を3日間、測定。その結果に基づいて、個々人に合ったコンディション調整方法を指導し、4泊5日のワーケーション中にそれを実践する。ワーケーション後も3日間、コンディション調整を日常生活に取り入れてもらう。睡眠、運動、食事の3つの良い習慣を実行してもらい、ワーケーション後も生産性が高い状態を保つことを検証する。

7月12日から16日まで、「ホテルハーヴェスト勝浦」に滞在して、実証実験に参加している東急リゾーツ&ステイDXソリューション部の尾関太一氏は、メリハリがある生活と本社や自宅よりも集中できることを実感していると言う。「社外とのやりとりも問題なくできる。ワーケーションをしていることを伝えていないが、気が付く人もいて皆さん興味を示してくれる」(尾関氏)と話す。

今回のプログラムは、ハーバード大学教授が関与。規則正しい生活で、自立神経のバランスがとれる効果が確認された。6月中旬に先行して実証実験を行った凸版印刷は、「(仕事の)パフォーマンスが上がっている」と言う。

仕事のパフォーマンスを上げるために、食事や運動を取り入れる動きも広がる。スポーツクラブ「メガロス」を運営する野村不動産ライフ&スポーツは、AI健康管理アプリ「カロミル」を提供するライフログテクノロジーと提携。企業の健康経営をサポートする法人向けサービス「カロミル well-being withメガロス」を7月28日から販売を開始した。これは健康管理のデータ記録機能とオンライン健康セミナーを組み合わせて3カ月集中で提供する。


先進的なオフィストイレ リフレッシュできる場に

オフィスに必ずある設備としてトイレがある。テナントのワーカーが何度も使うこの空間を、リフレッシュする空間として積極的に活用する動きも出てきた。

三菱地所が7月に開業した「常盤橋タワー」(東京都千代田区大手町、中央区八重洲)では、TOTOと協業し、3階の共用部のトイレを「nagomuma restroom(ナゴムマ レストルーム)」とした。様々な動作が完結可能な六角形ブースが特徴。男女の個室数の変更が可能で、今後、利用者の意見を聞きながらレイアウトの改善なども検討する。

また、空き状況を表示するサービスの導入に加え、内装や照明、音響演出などでリラックス効果を高めている。IoTを使って機器の状況や石けん残量把握など効率的な管理も可能で、27年度竣工予定の「トーチタワー」でも導入を検討する。


マンション関連事業で「攻めのDX」

あらゆる分野のデジタル化や先端テクノロジー活用が進む中、事業におけるコンセプトのパラダイムシフトを含むDXという概念の浸透は、不動産業界においても着実に進んでいる。ここでは、その中でも特にマンション事業に関わる不動産テックの試みに焦点を当てる。

マンションの開発・販売分野におけるDXの好例の一つが、7月16日に日鉄興和不動産がサービスを開始した「sumune for LIVIO」だ。同社の「LIVIO」シリーズのマンションについて、物件情報の閲覧や購入シミュレーションだけでなく、住宅ローン審査や購入の申し込み、引き渡しといった手続きをオンライン上で完結させられる国内初(同社調べ)のサービスとなっている。

2Q==

日鉄興和不の新サービス「sumune for LIVIO」利用画面のイメージ


住宅のオンライン販売は、国内ではまだ一般的とは言い難い。今回その分野に挑戦した背景として、同社の猪狩甲隆常務は「高額商品のEC化の進展」と「新型コロナの影響」を挙げた。住宅分野ではまだ普及していないだけで、今後は受け入れられていく可能性が高いという判断だ。前例のない試みだけに慎重な姿勢ながら、猪狩常務は「業界に先駆けて、DXによる新たな価値の創出を図っていく」と強い意気込みを見せる。

更に動機を掘り下げると、マンション販売における危機感が後押しした部分もあるようだ。猪狩常務によると、近年は開発物件の販売委託先が減少し、モデルルームなど販売促進に要するコストの大きさも無視できない。とはいえ、同サービスはあくまでも「新たな価値創出の手段」であり、単なるコスト削減ツールとは位置付けない考えだ。

同社と協働し、企画設計やシステム開発に携わったアルサーガパートナーズ(東京都渋谷区)の小俣泰明社長は、「不動産テックはコスト圧縮など〝守りのDX〟が多い傾向にあるが、『sumune』はウェブによる販売という新領域を開拓し、売り上げや顧客体験の向上を目指す〝攻めのDX〟だ」と強調した。

日鉄興和不は当面、対面販売と同サービスを併用していくものの、将来的には全面的なオンライン販売へと移行する方針。随時機能を拡充しながら、「常に進化を続け、(マンション販売の)価値観を変えていきたい」(猪狩常務)と未来図を描く。


オンライン取引の進化へ

周知の通り、不動産売買のデジタル化は以前からの業界の課題だ。そして仲介分野のIT重説をはじめ、その領域はコロナ禍により更に拡大の速度を増している。

投資用不動産事業を主力とし、マンション関連事業も手掛けるシノケングループでは、7月20日に不動産売買の電子契約サービス「不動産のトラストDXプラットフォーム」の提供を開始。マイナンバーカードを利用した個人認証サービスを導入しており、不動産売買領域では業界初の試みだという。同社は今後も継続的にサービスを進化させながら「新たなビジネスモデルとバリューを創出していく」(同社)としている。

ここでもキーワードとなるのは〝新たな価値の創出〟だ。既存の事業やサービスをデジタル化し効率的に提供するというだけでは、それをDXと呼ぶことは難しい。そこで先進的な業界各社は、デジタルとオンラインの活用により、新たな付加価値の実現へ向けしのぎを削っている。


管理分野も変革の動き

マンション関連では、販売だけでなく管理の分野でもデジタル活用による新サービスの提供が相次いでいる。

長谷工グループは7月19日、分譲マンション管理組合向けの新サービス「smooth-e(スムージー)」の提供を8月から開始すると発表した。区分所有法で定められた管理者を外部の専門家が担う「第三者管理者方式」により、分譲マンション管理事業を手掛ける長谷工コミュニティが受託するサービスだ。

その狙いは、理事会運営の困難化が進むマンション管理の課題解決を図るというもの。理事会を非設置とするものの、アプリなどオンラインツールを駆使して「全区分所有者による議論・意思決定への参加」「修繕計画や管理状況のウェブ公開」といった仕組みを盛り込んだ。

同社はこの試みを「分譲マンションの〝住まい方改革〟を実現」するサービスと位置付け、管理を受託するマンションで順次導入を進める。

これらの事例はいずれも、デジタル化それ自体を目的とせず、あくまでもサービス構築の手段と位置付けて「新たな価値の創出」を目指している。人々の生活に密着したマンションという領域だからこそ、体験価値の向上は顧客への訴求効果は大きく、今後もこうした新たなサービスの開発は加速化が予想される。

『住宅新報』2021年8月3・10日号より)

【関連する記事】

進む〝不動産DX〟 ~その1~

脱炭素社会実現に向け加速する住宅の省エネ化 ~その1~