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賃貸管理を巡る法体制が進展、課題解決に大きく前進 ~その2~

2021.9.3|業界の知識を深める

  • 賃貸管理
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賃貸不動産経営管理士は国家資格に

改正民法の施行から1年余りが経ち、6月15日には、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)」における受託管理方式・賃貸住宅管理業者の登録に関する条項が施行された。事業者の登録制度が創設されるなど、賃貸管理業を巡る法体制の明確化が進む中、コロナ禍で生活様式が一変、アパートやマンションなど賃貸住宅を取り巻く環境にも、影響が及んでいるようだ。(フリーライター小山田湊)

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日管協総研所員に聞く

騒音や賃料減額 中立の立場で客観的判断を

昨年からの1年は、改正民法が施行すると共に、コロナ禍の影響で住宅環境が変化し、共同住宅では入居者間トラブルが増えたとも言われている。日本賃貸住宅管理協会(日管協)の調査を担う日管協総合研究所員の鈴木一男氏、青栁人志氏、河村裕志氏に、コロナ禍の影響や管理会社の役割、民法改正や賃貸住宅管理業法の施行に伴う今後の賃貸住宅管理事業のあり方を聞いた。

和解や交渉の短期化にガイドライン活用を

――コロナ禍で騒音などの入居者間トラブルが増えていると言われているが、実際はどうか。

鈴木氏「騒音に関するトラブルは昔からあり、必ずしもコロナ禍によって増えたわけではない。〝騒音〟といっても、下階の入居者が神経過敏である場合もあり、上階の入居者が100%悪いとは限らない。感覚は人それぞれ異なるため、根本的な解決は難しいのが現状だ。もし、管理会社が間に入っているのであれば、まずは現場に管理会社の担当者を呼んで音の確認を依頼し、第三者の立場から客観的に音の程度を判断することが必要だ」

青栁氏「(コロナ禍で)在宅時間が増えたことなどから、〝これまで昼間自宅にいなかったので気づかなかった音が、気になるようになった〟といった事例は出てきている。同じ音であっても、木造とRCでは響き方が違うなど、構造上の問題もある。また、以前は入居者に〝共同住宅に住む〟という覚悟があり、〝(騒音は)あって当然〟という考えが浸透していた。今は賃料を払ってホテルに住むような感覚の入居者が増加傾向にあることも、無関係ではないだろう。大抵の場合、賃貸借契約書に、まずは隣接住戸同士で解決するよう記載がある」

――話し合いなどがこじれた場合、管理会社が間に入っても長期化することが多いようだが、どのような形で終結しているのか。

青栁氏「ほとんどの場合は、どちらかの退去で終結している。騒音を訴えた側が転居することが多いようだ。まれに、音の発生源である入居者が自ら退去しない場合であっても、騒音被害者が複数いる場合や、あまりにも長期にわたる場合は、度重なる迷惑行為による義務違反によって、(騒音の根源である入居者を)契約解除するといった事例もある」

鈴木氏「上階の入居者に防音シートを引くなどの対策をとってもらい、下階の入居者が〝音が今までの半分になったから良しとする〟といった、双方の歩み寄りによる解決がほとんど。問題がゼロにはならないのが現状だ」

――トラブル発生の際、管理会社がすべきことは。

河村氏「電話連絡などで、該当する入居者を誹謗(ひぼう)中傷しないように心掛けるほか、現地に赴くなど、やるべきことをしなければ、事件が起きた場合、管理責任を問われる可能性がある。ただし、仲裁する立場ではなく、あくまで中立な立場で対応すべきだ」

青栁氏「ポスティングや掲示板で情報発信する頻度を増やすこともできる。玄関口で当事者同士が直接相対すると、言い合いになるなど、かえってトラブルに発展するケースも珍しくないので、直接相対しない方がいいというアドバイスも必要だ」

――退去に至った場合、重要事項説明に入れるべきか。

河村氏「2回続けて同じ理由で退去した場合は、3回目の募集の際に告知するのが妥当と言えるだろう」

――ほかにコロナ禍によって、どんな相談が増えたか。

青栁氏「家賃の支払いが厳しくなったという話は多い。賃料減額に関する問い合わせも増えた」

鈴木氏「最近では、給付金の相談や、(入居者が)職を失った事例も出てきている。滞納に関するトラブルは、ほとんどの場合、家賃保証会社が間に入っておらず、恒常化していることが多い。そういった場合は、支払いを猶予するかどうかといったオーナーと借主の話し合いが必要となる」

――滞納者が出た場合、負担も増えるのでは。

青栁氏「(滞納による負担は)保証会社が負う代位弁済によるもの。滞納が発生したとしても、保証会社が入っている場合は、オーナーが痛手を負うことはない。ただし、(コロナ禍で)保証会社が倒産しているのではないかというオーナーからの相談もあった」


専門性向上に期待

――施行から1年が経った改正民法や、6月15日に施行した賃貸住宅管理業法の影響は。

鈴木氏「入居者からの〝賃料が減るのでは〟という相談が増えた。一方で、オーナーからの〝管理会社から賃料の減額を言われたが、どれくらい減額したらよいか〟という問い合わせも増えている。賃料減額についての周知が進んだ印象だ。日管協では各社の事例などをもとに、家賃減額のガイドラインを出している(図5参照)。今までの和解のたたき台として利用してほしい」

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図5 日管協賃料減額ガイドライン図(日本賃貸住宅管理協会「賃料減額ガイドライン」より)

河村氏「管理会社によっては、実損をベースに家賃の減額を算出することも多い。ガイドラインがあると、交渉が短くて済む。賃料減額の話はしやすくなっているようだ」 鈴木氏「とはいえ、〝給湯器の使い勝手が悪いのは、入居者が原因なので直さない〟といったオーナーもいる。設備を直さない限り、賃料が減るという意識改革が必要だ。一方、入居者からは、〝少しも汚してないのに(オーナーから)退去時にクロスの張り替えが必要と言われた〟といった相談も多い」

――入居者から相談を受けた場合の対処法は。

鈴木氏「入居者からの相談のみでは、あくまで一方通行なので、理不尽な請求なのか判断がつかない。入居時から傷があったと(入居者自身が)言わず、退去時にオーナーから傷を指摘された場合、水掛け論になることも少なくない。管理会社としては、入居時に傷があったことを証明できない限り、手直し費用を請求せざるを得ない。退去時にもめないためには、入居者は(入居時の状態を)写真に撮っておくことや、(傷や不具合を)入居時に申告しておくことが必要だ」

青栁氏「入居時に確認事項のチェックリストを作成する体制が必要だ。入居者に細かく確認や記録をしてもらうほか、管理会社も、クロスを張り替えていないか、新品か否かなどを、自己防衛でチェックすべきだ」

河村氏「法律上の立証責任は貸主(債権者)であるオーナーにある。実質的には管理会社が実証することが多い」

青栁氏「会社内で平準化されていない場合や、コミュニケーションが取れていないといった場合もある。また、担当者によって対応が全く異なるといったケースもある」

――こうしたトラブルを防ぐためにも、賃貸不動産経営管理士が必要なのでは。

青栁氏「賃貸住宅管理業法の施行が、業界のボトムアップにつながることを期待している。管理会社がオーナー、入居者の双方にきちんと説明できれば、トラブルは回避できる。ある程度は、後日の紛争を少なくする効果はあるだろう。管理会社の意識を再確認する機会にしてほしい」

鈴木氏「賃貸不動産経営管理士の試験は宅地建物取引士(宅建士)と同様、国家試験となり、難易度が高くなることが予想され、合格するためには、十分に勉強する必要がある。今後は、ある程度知識を持ち、それを基に入居者やオーナーに対応することになる。質が向上するはずだ」

河村氏「業法ができたことで、悪質な業者が淘汰(とうた)されるのが理想。今までは不動産業務全般を宅建士がカバーしていたが、今後は、賃貸管理業務に特化した賃貸不動産経営管理士によって、業務の細分化が進み、(士業になった)宅建士と同様、専門性が向上するだろう。自覚をもって取り組めば、管理会社トラブルを回避できるのではないか」

青栁氏「管理会社に関する情報開示などが進み、入居者が物件を選ぶ基準にもなっていくなど、将来的には、米国などのように管理業者の地位が確立されることを期待している。法制度の整備が、管理業者の信用向上につながってほしい」