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テレワーク等で働き方が多様化、コロナ禍でオフィス市況はどう動くか ~その2~

2021.8.23|業界の知識を深める

  • コロナ禍
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新型コロナに翻弄された大都市圏

新型コロナウイルスのまん延は、大都市圏の経済活動に大打撃を与えた。一方、ICT等の急速な実用化が、テレワーク等による働き方の多様化を促進した。コロナ禍による通勤自粛等の要請に加え、テレワーク等の多様な働き方を可能とする労働環境の変化は、少なからずオフィスビル市況にも影響を与えている。加えて、大都市圏でも顕在化しつつある人口減少による影響を踏まえ、オフィスビルのあり方を再考し、新たな役割を考察する。

一般財団法人日本不動産研究所 企画部 幸田仁(不動産鑑定士)

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人口減少が予測される首都圏

国土交通省が発表した「企業等の東京一極集中に関する懇談会とりまとめ(令和3年1月)」(以下、「懇談会」)によれば、若者を中心に東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)への転入超過が続き、仕事面や生活面で地方よりも優位である東京圏にとどまる傾向があるとした。一方で、今後の首都直下型地震等の自然災害リスク等を踏まえると東京圏への一極集中が大きなリスクになるというとりまとめがおこなわれた。当懇親会では、東京一極集中是正に向けた取り組みの方向性として3つのポイントをあげている。

1つ目は企業の東京都心集中等の緩和として、「東京都心の仕事を地方や東京郊外で行うテレワークの普及」、「修学・就業等に伴う若者の東京圏への集中是正」をあげ、2つ目は地方で学び、働くことが出来る環境整備、3つ目は新たな価値観・生活様式への転換として、「地方に住むこと、二地域居住やワーケーション等の拡大」を挙げている。これまでの東京一極集中が過度に続くことを踏まえた懇談会であるが、今後の若者を中心とする人口減少という課題も浮上している。

減少が続く子供の人口

総務省は21年4月1日現在における子供の数(15歳未満人口)は、82年から40年連続の減少となり、1493万人と発表した。いわゆる第2次ベビーブームといわれた80年には、子供の数が2700万人を超えていたことと比較すると、ピーク時の約55%にまで減少している。

また、20年はコロナ禍による出産を控える動きもあり、出生数が85万人を下回る見通しとの報道があった。国立社会保障・人口問題研究所が17年に発表した人口予測を上回るスピードで減少している。

その理由として、新型コロナの感染拡大による不安や緊急事態宣言、非正規雇用の女性が失職するといった経済的な要因も影響しているのではないかとの意見もあった。

(グラフ2)は、東京圏の15歳~65歳の将来推計人口を示したものである。20年から45年にかけて、約400万人減少する推計値である。この人数は現在の横浜市の人口がおよそ380万人であることを考えると、横浜市の住民がまるごといなくなる規模となる。

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(グラフ2)

オフィスビルの機能は、日々の業務のために各企業の従業員が集まる空間を提供することを中心とするが、今後20年~30年のうちに、東京圏の労働人口が約20%減少する可能性が高いとするならば、東京圏の各企業が考えるオフィスビルに対するニーズも変化する可能性が高い。

東京一極集中は続くのか

懇談会で議論された東京一極集中を解消するための議論は、東京都心集中を緩和し、地方で暮らしながらも学び、働くことができる環境整備と新たな価値観や生活様式への転換を促すことを提案している。言い換えれば、東京圏で暮らし、働き、学ぶ人々を地方へと分散させる方向への提言である。

一方で、東京都心部では東京駅~日本橋エリア、虎ノ門~神谷町・赤坂エリア、品川周辺エリア、渋谷エリア、新宿エリア、池袋エリアを中心に大規模な再開発が進行中である。いずれの再開発も大規模化と複数の再開発事業との連携により、集客力の相乗効果を狙っているようにも見える。また、計画が集中しているエリアが、乗降客数が多い駅周辺のエリアと概ね一致しており、各エリアでの集客力をさらに増進させる効果もあるだろう。

懇談会の議論の方向性は、東京一極集中の回避という分散化の方向であるが、東京都心部の再開発事業等は、都市機能の高度化によるビジネスやレジャーを含めた集客力の増進を目指すいわば集中化の方向に向かい二律背反が生じているように思われる。また、今後の労働者の人口減少は、大規模化、高機能化されたオフィスビルにとっても厳しい課題を突きつける可能性がある。近年の大型ビルの建築技術や耐震性能、建設資材等の性能アップによって耐用年数は長期化し、50年以上は充分使用に耐えられるとすれば、20年~30年後に訪れる人口減少は、テナントニーズにも影響するであろう。

加えて、今後のテレワーク等が常態化するとなれば、さらに拍車をかけることにもなりかねない。そうなれば、これまでのオフィスビルのもつ「働く場所を提供する」という本来的な機能が減退してしまう可能性もある。急激な変化とはならないにせよ、10年後、20年後にはICT等の技術のさらなる発達は加速するだろう。それまでにはオフィスビルがもつ新たな機能を生み出さねばならない時が目の前に来ていると考える。 弊所が発表している「全国オフィスビル調査(20年1月現在)」の「都市・築後年数別のストック割合(面積ベース)」は(グラフ3)のとおりである。東京区部の建築年数別の割合は、築30年以上のビルは他都市に比べて最も少なく、築20年以内の割合が最も多い。大阪圏や名古屋圏、主要都市等に比べてもオフィスビルの建て替えが進んでいることがわかる。今後計画されるオフィスビルは、テレワークの普及やオフィスワーカーの減少を見据えた設計、機能を備えることのほか、築30年以上経過したオフィスビルについては、単なる建て替えや再開発だけではなく、耐震性能のリスクは伴うが、リノベーションや用途転換も見据えた利活用も視野に入れる検討が必要になるだろう。

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(グラフ3)都市・築後年数別のストック割合(面積ベース)一般財団法人日本不動産研究所調べ


オフィスビルのあり方が問われる時代に向けて

1945年、戦争に敗れた日本は、焼け野原となった都市の再建とともに、多くの企業のたゆまぬ努力によって奇跡的な復興を遂げた。地方から多くの若者が大都市に集結し、高度経済成長を続けた日本は、世界有数の経済大国となった。

高度経済成長期からバブル期にかけては、ビジネスの基本は人と人とのコミュニケーションであった。人が集まり、知恵を出し合い、議論を重ね、仕事の基本と理念を感じ取ることで企業は発展した。オフィス空間はまさにビジネスを成長させ、社員相互の仕事に対する価値観を共有する空間としての機能を果たしたのである。

時代は変わり2000年代以降、パソコンとインターネットが急速に普及した。この頃から徐々にオフィスは、人と人とのコミュニケーションの場から、パソコンと向き合う業務が増え、オフィスにいながらも徐々にコミュニケーションや情報共有の機会が少なくなっていく。 そして、現在、第四次産業革命といわれるICT、AI、IoT等が実用化され、情報通信回線の高速化によってWEB会議やクラウドシステムを活用した多様なサービスが提供され、オフィスに出勤せずとも業務を行う事が可能となった。現に、執務室内では職員同士の会話は少なく、キーボードを打つ音とマウスをクリックする音が聞こえるような静まりかえった空間になっているオフィスも少なくないのではなかろうか?

本来、オフィスビルは社員が集まり、意見交換や議論を通じて知恵を出し、お互いに成長することで価値観や理念を共有する空間であるはずだ。ここに人が集まることの重要性があり、オフィスビルの機能を発揮する必要性があるのではないだろうか。

近年「Z世代」という若者たちが注目されている。Z世代とは米国での世代の呼び方から来ているといわれ、1995年~2012年頃に産まれた世代をいう。彼らは物心がついた時からパソコンやインターネットに触れており、いわゆるデジタルネイティブであるという特徴のほか、スマートフォンが普及し始めた頃と重なり、SNSを自在に使いこなし、ソーシャルネイティブでもあると言われている。そのため、子供の頃からインターネットやSNSを通じて多くの情報(多様な意見、SNSでのコミュニティ)に触れてきたこともあり、ダイバーシティ(多様性)やインクルーシブ社会(性別や人種、個性や障害を受け入れる社会)に対しても抵抗感が少なく、関心を高く持っている。このほか仕事や暮らしに対して重視する価値観や消費に対する考え方もこれまでの世代とは異なると言われている。

Z世代が救う新たなオフィスビルの役割

今後、Z世代の若者は、これまでの私達が考えていた働き方、価値観、他社とのコミュニケーションの方法も大きく異なると思える。インターネットやSNSを通じて、様々なコミュニティに所属できる柔軟性をもったZ世代は、私達には思いも寄らない「オフィスでの働き方」を生み出すかもしれない。パターナリズム的労働を嫌い、もっと自由に、もっと創造的な空間を求めるのではなかろうか。

Z世代の若者は、これまでのオフィスビルに対するステレオタイプを打ち崩し、奇抜な発想や独創性をもって新たなオフィスビルの役割を創り上げてくれることに期待したい。

『住宅新報』2021年6月15日号「資産運用ビジネス特集」より)

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