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コロナ影響でEC市場拡大 物流不動産が再加速 ~その1~

2021.8.10|業界の知識を深める

  • 物流不動産
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サプライチェーン構造変化で需要増

新型コロナウイルスの感染防止のため、東京・大阪・兵庫・京都に加え、沖縄でも緊急事態宣言が繰り返され、経済活動の鈍化への懸念、東京五輪開催の混乱、株高と実体経済との乖離と、社会全体の混迷が続いている。ニューノーマルで、大都市部でのEC需要の高まり、サプライチェーン分断による物流再構築、社会に浸透するSDGsの影響により、新たな動きが物流不動産市場に見えてきた。再加速する物流不動産を解説する。

(イーソーコ総合研究所 取締役会長 大谷巌一)


低金利政策は続行

コロナの影響でホテル、商業施設などの多くの不動産は、建築プロジェクトの延期・中止が相次いだが、ここにきて、少しずつ回復の兆しが見られるようになった。

米国では投資家が収益を追求しやすい相場状況となるリスクオンの相場が継続されてきた。世界的には、主要都市でのワクチン普及効果でコロナ対策が緩和され、コロナ前の状況に近づくことが予想されている。

国内に目を転じると、コロナの影響を最も強く受けた外食産業や旅行、レジャーなどの対面型サービス消費は最悪の状態から脱してきた感がある。ワクチンの接種普及によって経済活動が正常化に向かう見方が強まれば、経済回復に期待が持てそうだ。

2月26日に開かれた衆院財務金融委員会で、日銀・黒田総裁は「新型コロナウイルス感染症が経済に大きな打撃を与えたため、長期金利誘導目標のゼロ%程度から、上げていくことはない」と明言。不動産業界の景気を大きく左右する低金利はしばらく続行する流れが見えてきた。この緩和的金融政策、外需の回復、政府による経済対策などが後押しとなり、不動産業界の持ち直しは進むだろう。

コロナで日本のEC市場は拡大している。特に顕著だったのが首都圏、関西圏だ。経済産業省の発表によると、EC全体で19・3兆円と、20兆円規模が見えてきた。その中のいわゆるモノの販売を行う物販系は10兆円市場まで規模が拡大した。これに拍車をかけたのがスマートフォンの活用だ。15年がネットショッピングにスマートフォンを利用する人は30%未満だったが、現在では約80%まで増えた(図表1、2)。

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【図表1】スマホの普及がEC市場を後押し

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【図表2】国内EC市場規模の推移

EC市場規模の拡大に伴い、宅配便最大手・ヤマト運輸の営業利益は、3月の決算短信で前年比2倍超となる921億円と、過去最高を記録した。宅配便個数は同社最高となる20億個の壁を突破した。

日本のEC化率の急伸で、買い物スタイルがこれまでと大きく変わってきた。それに合わせて物流不動産も変化している。


荷主の動き停滞で悪影響も

EC需要の加速から、更に追い風が吹くようになったのが物流不動産市場の賃貸需要だ。通常はコストでしかない物流であるが、AmazonフルフィルメントのようなEC企業を顧客とする物流会社は販売支援のサービスを通してプロフィットを提供する。

同様な物流サービスを提供する楽天スーパーロジスティクス、ロコンドはEC業界で急成長を続ける3PLサービスを展開している。これらの物流企業の急拡大の背景には大量供給される物流不動産が受け皿となり、物流不動産市場を堅調に推移させている。

EC専用の物流不動産はピッキング作業が中心となり、欠品しない在庫量の保管、梱包スペースが必要となるため、大きな床面積が必要となる。そのため、EC事業者や3PL事業者は複数拠点の統廃合・集約を図り、消費者に近く、交通アクセスの良好な物流不動産に高いニーズがある。

私は物流不動産への集約の優位性について講演で発表し続けてきたが、複数の大型施設を超大型の物流不動産一か所に集約することで、拠点間でのモノの移動(横持ち)の回数減、広いスペース活用による保管効率を高めた有効面積の最大化、人材の最適化と物流のリードタイムの短縮を図ることで、大幅な物流コスト削減を実現する。EC市場の成長は物流不動産マーケットを大きくけん引し、製造業の落ち込みをカバーするプラス効果を生んだ。結果、首都圏および周辺地域の大型物流不動産の大規模な開発用地の不足を招いた。

ここ数年の新たな動きとして、大手物流不動産ディベロッパーのプロロジスは、都市中心部となる消費地でのラストワンマイル圏で活用できる「プロロジスアーバン」(写真1)という新ブランドを立ち上げた。従来型の「プロロジスパーク」とは一線を画した都市型施設だ。東京・品川と足立に立ち上げた3つのマルチユース施設が全て満床になったことを受けて、大田の羽田国際空港至近に新施設の開発が決定した。約100坪からの小規模利用のテナントにアピール、新たな需要を見込む。一方、貸主であるディベロッパー(ファンド)には、コロナによる売り上げと出荷量が低下した荷主からの賃料減額の相談が少なからず寄せられているようだ。

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【写真1】プロロジスアーバン東京品川1 館内イメージ(出典:プロロジス)

荷主の動きが停滞すれば、3PLの新規ニーズは減少する。物流業界がもつ経済環境の変化の影響が遅れて出てくる遅効性からも理解できる。私が複数のディベロッパーに聞いたところ、減額には応じず、現状維持となった企業が多い。コロナで低空飛行となった生産活動が反映され、素材や部品等の海外からの原材料等の輸入も停滞したことから貿易貨物が大幅に減少、低調な荷動きとなった。不動産鑑定アドバイザリーをグローバルに手がけるサヴィルズ・ジャパンの杉山実ディレクターは「サプライチェーンの再構築は途上状態。この先、あらゆる企業にとって重要な戦略になるだろう」と見る。


課題はサプライチェーン見直し

新型コロナウイルス感染拡大を受けて、前述のように世界各地で生産活動の停止、モノや人の移動制限が要因し、グローバルベースでサプライチェーンが分断されて崩壊した。物資の供給途絶リスクが顕在化していったのだ。

日本メーカーはこれまで国外での低賃金の人件費を活用するため、工場の海外シフトを進めてきた。今回コロナによるサプライチェーンの分断により、国内生産に回帰する供給体制の重要性が認識されているが、その動きは鈍化している。

そこで俎上に載ったのが、サプライチェーンの見直しだ。前出の杉山氏は「グローバル・サプライチェーン変革が進む」と語る。製造業は、必要なものを、必要な時に、必要なだけ、必要なところへ供給するジャスト・イン・タイムを重要視してきたが、激甚化する自然災害や今回のコロナのようにモノや人の移動が制限される事態から、BCP対策で一定の保管量をキープするサプライチェーンの重要性が改めてクローズアップされてきた。

サプライチェーン再構築に欠かせないのが可視化、管理組織の強化、業務の標準化の3点。同時に、IoTやAIなど、最新鋭のデジタル技術を活用し、サプライチェーンの高度化を実現できる段階に入ってきたのではないだろうか。ここで重要なポイントとなるのが、適正在庫の保管先となる全国主要都市で点在する物流不動産だ。

『住宅新報』2021年6月15日号「資産運用ビジネス特集」より)

その2へ続く